お知らせ
2023年11月02日(木)
分子生化学講座 田中 正光 教授が研究代表者、消化器外科講座 堀江 美里 医員が代表著者となる学術論文が国際誌『Molecular Oncology』に掲載されました
論文タイトル
Exosomes secreted by ST3GAL5-high cancer cells promote peritoneal dissemination by establishing a pre-metastatic microenvironment
著者名
Misato Horie, Kurara Takagane, Go Itoh, Sei Kuriyama, Kazuyoshi Yanagihara, Masakazu Yashiro, Michinobu Umakoshi, Akiteru Goto, Junichi Arita, Masamitsu Tanaka
掲載誌
Molecular Oncology
研究等概要
胃癌などでは進行すると腹膜播種をおこし、治療成績が低下する。大網や腸間膜に多く見られる乳斑は、腹膜播種の好発部位である。今回ガングリオシド合成酵素ST3GAL5を高発現している胃癌細胞は、癌細胞の腹膜播種に先立ち、乳斑に癌細胞が転移し易い微小環境を形成する事を見出した。そのメカニズムとして、同癌細胞の分泌するエクソソームは乳斑のマクロファージに取り込まれ易く、極性変化したマクロファージを介して腹膜を覆う中皮細胞を癌促進性の線維芽細胞に変換する。また乳斑T細胞に免疫チェックポイント分子の誘導や疲弊をおこし、免疫環境を悪化させる。難治性の腹膜播種を防ぐ上で、ひとつの有用な分子経路となるかもしれない。
腹膜播種は胃癌や膵癌、卵巣癌などでみられ、予後不良となる。その好発部位である乳斑は、本来細菌などに対する免疫防御器官であるが、癌細胞が好んで転移するホットスポットでもある。ST3GAL5遺伝子を高発現する胃癌細胞が腹腔内に分泌するエクソソーム(細胞外小胞)は、乳斑の細胞機能を改変し、中皮細胞のバリア構造の破綻や免疫抑制を起こす事で癌細胞が転移し易い微小環境を形成する。まだよく分かっていない、乳斑の転移(播種)前ニッチの形成機構の一部を明らかにしたもので、今後治療応用に繋がるかもしれない。