お知らせ
2023年07月14日(金)
心臓血管外科学講座の 五十嵐 亘 先生らが著者となる学術論文が国際誌『International Journal of Molecular Sciences』に掲載されました
論文タイトル
Bioinformatic Identification of Potential RNA Alterations on the Atrial Fibrillation Remodeling from Human Pulmonary Veins
著者名
Wataru Igarashi†, Daichi Takagi†, Daigo Okada, Daiki Kobayashi, Miho Oka, Toshiro Io, Kuniaki Ishii, Kyoichi Ono, Hiroshi Yamamoto, Yosuke Okamoto*
(† co-first author, * corresponding author)
掲載誌
International Journal of Molecular Sciences
研究等概要
最も頻度の高い不整脈である心房細動は無症候性も含めると全国で患者数が170万人いると見積もられている。心房細動の発生部位は心臓心房と肺の連結部分である肺静脈(PV)がほどんどで、心房細動発生の分子機構はPVサンプルで研究するのが一般的である。一方で、心房細動が持続する仕組みは心房自体の基質変化に原因があると考えられているため、持続性または慢性心房細動の原因探索は心房サンプルで研究されてきた。今回、我々は、持続性または慢性心房細動による遺伝子発現の変化を、PVを含む心臓6区域(PV、左心房、右心房、左心室(LV)、右心室、洞房結節)で解析した。献体由来心臓と僧帽弁置換術時に生じる右心房サンプルから心臓6区域のRNAを抽出して、RNA-seq法で持続性心房細動の有無による遺伝子発現の差異を比較した。持続性の心房細動により、遺伝子発現が最も影響を受けている心臓区域はPVで、次がLVだった。Gene Ontology解析の結果、特にイオンチャネルなどのイオン透過性膜タンパクがエンリッチされた遺伝子グループだった。共発現ネットワーク解析の結果、遺伝子発現がアップレギュレーションしている遺伝子群(Subnetwork A)と遺伝子発現がダウンレギュレーションしている遺伝子群(Subnetwork B)と混合型のSubnetwork Cが同定された。
(1)心房細動(AF)による遺伝子発現の変化が心房よりも肺静脈(PV)で大きい事実は重要な発見である。これまで、線維化や血栓形成などのAFリモデリングが右心房より左心房で強く生じる理由が謎であった。今回の研究結果より、リモデリングが左心房で強いのは、リモデリングの原発巣がPVだからだと推測できる。
(2)Subnetwork Aには血栓誘発因子(ALCAM、PDGFD)の他、癌関連転写因子FOXC1と癌関連長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)であるFOXCUT、SAMMSONなどが載っている。癌研究ではFOXC1とFOXCUTとの協調により上皮間葉遷移(EMT)が生じることが知られており、AFリモデリングで線維化増強が生じるのはEMTが関与している可能性がある。
(3)したがって、本研究はAF予防ががん予防と同様のストラテジーになる可能性を示している。
(4)Subnetwork Bには既知のAF関連遺伝子(NKX2-5、SCN2B、KCNH2)が載っていて、これらの遺伝子の重要性が再確認された。
参考URL
https://www.mdpi.com/1422-0067/24/13/10501