お知らせ
2022年08月05日(金)
細胞生理学講座 岡本 洋介 講師が著者となる学術論文が国際誌『Biomolecules』に掲載されました。
論文タイトル
1)Comparative Study of Transcriptome in the Hearts Isolated from Mice, Rats, and Humans
2)Preferential Expression of Ca2+-Stimulable Adenylyl Cyclase III in the Supraventricular Area, including Arrhythmogenic Pulmonary Vein of the Rat Heart
著者名
1)Daigo Okada,Yosuke Okamoto*,Toshiro Io,Miho Oka,Daiki Kobayashi,Suzuka Ito,Ryo Yamada,Kuniaki Ishii, Kyoichi Ono
2)Yosuke Okamoto*, Naing Ye Aung, Masahiro Tanaka,Yuji Takeda,Daichi Takagi,Wataru Igarashi ,Kuniaki Ishii,Mitsunori Yamakawa, Kyoichi Ono*
* Corresponding author
掲載誌
Biomolecules
研究等概要
1)心臓は哺乳類の生命維持に重要な器官であり、長年の科学研究により心臓拍動の基本的な分子機構は既に確立されてしまったように見える。しかし、種差に着目したハイスループットな研究はほとんど行われておらず、種を超えて普遍的な機能を持つ遺伝子や、種差を決定する遺伝子の研究には課題が残されている。我々は、マウス、ラット、ヒトの心房、心室、洞房結節(SA)のトランスクリプトームデータを解析し、種差を考慮したSpecificity measure(SPM)値を算出して比較した。3つの心臓領域の中で、SAの種差が最も大きく、SAの本質的な特徴を決定する遺伝子を探索したところ、我々の基準ではSHOX2であった。SHOX2のSPM値は、生物種を超えて突出して高かった。同様にSPM値を計算することで、新規の心臓区域特異的マーカーや種依存的なオントロジーが明らかになった。
洞房結節は心臓のペースメーカー部位であり、洞房結節機能を司る普遍的な転写因子がSHOX2であると同定した意義は大きい。現代医療では洞房結節が機能不全に陥り徐脈になる疾患は、機械式ペースメーカーを植え込むことで治療するが、機械式の場合、電池交換の度に植え込み術が行われ患者の負担が大きい。このため、移植するための恒久的なペースメーカー細胞を幹細胞から分化誘導する研究が全世界的に行われている。我々の研究はペースメーカー誘導に必要な最重要転写因子はSHOX2だという事を示唆している。
2)肺静脈の異所性興奮は心房細動の主要な原因である。我々は以前、ラット肺静脈心筋細胞のイノシトール三リン酸受容体がNa+-Ca2+交換体と協調して、交感神経刺激に応答して異所性自動興奮を誘発することを報告した。今回の研究では交感神経刺激のもう一つのエフェクターとしてアデニル酸シクラーゼ(AC)に注目した。ACには10種類のアイソタイプが存在するが、このうちCa2+刺激性ACであるAC3が肺静脈を含む心臓上室領域に限局して発現しており、特に、Ca2+濃縮装置であるT管という膜構造近傍に沿って存在していることがわかった。ACの働きを介したL型Ca2+電流のcAMP依存性応答は高Ca2+条件下で強化され、肺静脈異所性自動能はAC阻害剤で可逆的に抑制されたため、AC3が異所性自動能の発生に寄与していると考えられた。
心房細動は極めて患者数の多い心疾患で、無症候性も含めると全国で約170万人の罹患者がいると見積もられている。この不整脈は動悸やめまいなどの不整脈症状のほか、脳塞栓・心不全・認知症などの合併症が社会問題となっている。このため、肺静脈隔離術や抗凝固療法など心房細動治療法が進歩してきたが、抗不整脈薬の有効率が25%と低いという問題がある。我々はこれまでイノシトール三リン酸受容体、Na+-Ca2+交換体、過分極活性型Cl-チャネルなど、肺静脈異所性興奮に特化した薬剤標的を報告してきたが、今回、新たにAC3を付け加えた。