⑦未来の医師を育てるカリキュラム―新しい医学・医療を拓くデジタル教育の試み―

⑦未来の医師を育てるカリキュラム―新しい医学・医療を拓くデジタル教育の試み―

小西 先進デジタル医学・医療教育学講座

秋田大学医学部では6年間を通じて多岐にわたる教育方法を用いており、教育内容も医学の進歩や社会の変化に柔軟に対応したものとなっています。その理由として、従来の医学教育で行われていた一方向的な講義だけでなく、双方向的な学びや、学生主体の自律的な学習形態を取り入れることで、それぞれの学生が自身の得意分野や、特性を活かし、仲間と一緒に学びを深めて成長してほしいという、我々教員の願いがあります。

時代とともに変化する社会の中で、医師に求められる能力も変化しています。多くの知識を持っているだけではなく、その知識を活用する能力や、他者とともに学びを深める能力を涵養する必要があり、発展的で先進的な教育が求められます。

生活のあらゆる場面にデジタル技術が活用され、デジタル技術と共生する社会となり、医学教育においてもデジタル化の波が押し寄せていますが、秋田大学医学部では早くからこの点に着目し、2022年12月には、デジタル技術を用いた教育をさらに活性化させるという目的で「先進デジタル医学・医療教育学講座/デジタル医学・医療教育推進センター」設立されました。現在秋田大学医学部では様々なデジタル教育を行っていますが、その一部を簡単にご紹介させていただきます。

①デジタル技術を用いた基礎医学の実習

医学の進歩を支える基礎医学は非常に重要な分野です。6年間の医学部カリキュラムでは、初期の段階で基礎医学に関する講義や実習を行います。ヒトの体はさまざまな臓器から構成されていますが、それについて医学部ではマクロ、ミクロの両方から学びます。例えば、臓器を構成する組織について学ぶ際、学生は組織切片を顕微鏡で観察し、スケッチをして理解を深めます。本学の病理学実習や組織学実習では、通常の顕微鏡を用いた観察方法と、先進的なデジタルスライドを用いた観察方法の両者を併用した実習が行われています。両者を組み合わせることにより、伝統的な方法の意義と、新しい方法がもたらす利便性を同時に学ぶことが可能となります(図1)。

組織学実習の様子
組織学実習の様子
組織学実習の様子
図1:組織学実習の様子
通常の顕微鏡では、手動でレンズを動かし倍率を変えます(左上)。一方、デジタルスライドではクリック操作でシームレスに高倍率まで拡大をすることができます(右上)。これにより、観察部位を見失うことなく、詳細を観察することが可能となりました。本学では、両者の意義をしっかり理解できるよう、併用した実習を行っています(下)。

②動画教材を活用した臨床実習

2023年9月に秋田大学医学生向けに実施した「デジタル学習に関するアンケート」では、ほとんどの学生がWeb上の学習リソースを使用していることがわかりました。また、使用頻度が高いWeb学習リソースとしては、ラーニングマネージメントシステム(授業資料などがアップロードされている秋田大学のシステム)や動画共有サイト、学習アプリなど多岐にわたることがわかりました(図2)。

デジタル学習アンケートの回答の一部
デジタル学習アンケートの回答の一部
図2:秋田大学医学生 デジタル学習アンケートの回答の一部

このようなデジタルを用いた学習は、臨床実習においても重要な役割を担っています。臨床実習とは、学生が実際の診療現場で指導医や研修医から直接指導を受けながら学ぶ実習ですが、この中で、電子書籍などを活用して知識を確認したり、指導医が作成した動画を補助的に用いて学びを深めています(図3)。

タブレットを用いた臨床実習の様子
タブレットを用いた臨床実習の様子
タブレットを用いた臨床実習の様子
図3:タブレットを用いた臨床実習の様子
臨床実習の中で行われる指導医レクチャーの際は、経験した症例などについて質問を受けることもあります(左上)。学生はラーニングマネージメントシステムにアップロードされた資料を見ながら医学知識の確認をしたり、教員が作成した動画教材を見ながら理解を深めるなどしています(右上、下)。

③電子カルテへの記載や、データベースによる学習

臨床実習では、学生は外来や手術現場を見学したり、実際に患者さんからお話を伺う機会があります。また、自分で患者さんを担当する際は、患者さんからお話を伺うだけでなく、指導医に、検査結果や治療方針について自分なりの考えを述べる機会もあります。教科書で学んだことを、実際の臨床に結び付けて理解することは容易ではなく、現場での実践的な学びが必要となります。秋田大学では電子カルテの閲覧に加え、医学情報や最新の治療ガイドラインなどが掲載されたデータベースへのアクセスが可能であり、学生はこのようなリソースを用いて学びを深めることが可能です(図4)。

臨床実習における医学生の参加
臨床実習における医学生の参加
臨床実習における医学生の参加
臨床実習における医学生の参加
図4:臨床実習における医学生の参加
侵襲的治療の見学や(上)、指導医との外来診察(2段目)、指導医と患者さんの病室を訪ねる病棟回診(3段目)などがあります。また、カルテを見ながら担当患者さんの検査や治療について指導医に自分の考えを述べる場面もあります(下)。このような臨床実習では、学生が現場で知識を確認する必要があり、その際、電子カルテの端末でデータベースを確認することもあります。

④動画を用いた振り返りシステム

医学教育において、自分のパフォーマンスを動画などで振り返り、学びを深めることは効果的な学習方法であると言われています。また、臨床実習では通常、複数の学生がグループでローテーションをしますが、同級生が診察を行っている姿を見ながら、「自分だったらどうするだろうか」などと考えながら追体験して学ぶことも非常に重要な機会です。秋田大学では、学生の医療面接の能力を高める目的で、診察室にカメラを配置して、動画による振り返りができるシステムが導入されています。このシステムを用いることで、あとから指導医と自分のパフォーマンスについて振り返り、その場では気づかなかった点について指摘を受け、多角的に学ぶことが可能となります。なお、本システムは患者さんから同意を得られたときのみ使用しており、撮影した動画は医学生向けの教育目的以外には使用しておりません(図5)。

動画を用いた振り返り
動画を用いた振り返り
動画を用いた振り返り
動画を用いた振り返り
図5:動画を用いた振り返り
診察室の天井などにカメラを備え付け、異なる角度から診察風景を観察できるようになっています(上、2段目、3段目)。指導医は、学生のパフォーマンスに対し、実際の動画を見せながら振り返りを行います(下)。

⑤ビデオ会議システムを用いた研究ディスカッション

基礎医学・臨床医学に加え、学生が習得すべき重要な学問領域として社会医学があります。医師は患者さんの病気といった生物学的側面だけに着目するのではなく、患者さんが生きている環境など社会的側面も考慮しながら医療を行う必要があります。秋田大学医学部では社会医学領域についても講義のみならず研究室配属などの学生参加型の教育機会が充実しており、より広い視座で医療を捉え、学ぶことを可能にしています。

また、最先端の研究について学ぶ際に、ビデオ会議システムを用いてディスカッションをしたり、抄読会を行うなど、ここでもデジタルを活用した学びが行われています(図6)。

研究ディスカッションの様子
図6:ビデオ会議システムを用いて行う研究ディスカッションの様子

秋田大学医学部で行っているデジタルを用いた教育改善の取り組みは、実践報告などで積極的に報告をしております(文献1、2)。また、今後の展望として、ヴァーチャルリアリティ(VR)や生成系AIによる医療面接演習も計画しています。予測不可能な時代と言われる現代ですが、そのような時代に強い探求心や好奇心を持って、キャリアを切り拓いていくためには、単にデジタル化を推し進めればいいのではなく、伝統的なやり方の意義も理解しながら、うまくデジタルを活用していくことが必要であると考えます。未来の医師を育てる場として、秋田の緑豊かで自然に囲まれた環境は最適です。皆さんも秋田の地で一緒に医学を学びませんか?

研究ディスカッションの様子
文責:先進デジタル医学・医療教育学講座   及川沙耶佳

文献

1) 鵜沼篤, 及川沙耶佳, 長谷川仁志, 新山幸俊. 麻酔科臨床実習におけるMicrosoft Teams を活用したピア・ラーニングの実践. 医学教育. 2023. 54. 6. 622-624

2) 佐々木優衣, 大貫佑佳, 髙橋和平, 及川沙耶佳, 長谷川仁志. CC-EPOCの作業効率化を目的としたExcelマクロの活用. 医学教育. 2024. 55. 1. 40-41

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