⑤2014年卒業(第39期生)湖東厚生病院 漆畑宗介先生

コミュニティドクターについて

みなさん、はじめまして。漆畑宗介と申します。私は秋田大学を2014年に卒業し、東京で初期研修、後期研修をさせていただき、2021年3月に妻と二人、五城目町に移住して来ました。専門は総合診療になります。今は八郎潟町にある湖東厚生病院で内科医として働きつつ、特に興味のある地域・コミュニティに関して”コミュニティドクター”を名乗り、病院から町に飛び出して、健康で幸せな暮らしを住民の皆さんと一緒に探求しています。

今回はそんな私の活動の経緯と具体的な内容、そして思いについてお話ししたいと思います。

自己紹介

レストランと熱海の実家

まず自己紹介になりますが、私は昭和63年に静岡県熱海市に生まれました。医療者の親戚はおらず、両親はレストランとタルト屋、祖父母はホテルでラーメン屋を営んでおり、小さい頃からホテルで温泉に入ったり、ゲームセンターで遊んだりしていました。中学時代にたまたまテレビ番組で、これから日本でがん患者さんが増えていく事を知り、家族ががんになった時に診れるようになりたいと医師を目指すようになりました。1年間の浪人を経て、母方の祖父の故郷であり、がん患者さんが多いなどの理由から秋田大学医学部に進学します。

がん登山

がん登山

そんな私ですが、大学時代に今の活動に繋がる経験を2つしています。一つ目が先輩に誘われて通うようになったがんサロンへの参加です。今も残っているかもしれませんが医療系サークルMedicAの活動でお邪魔し、沢山の患者さん達からお話を聞く事が出来ました。その中で遠方から大学病院に通院を続ける年配の方のお話を聞き、地域に診れる医師がいれば、患者さんの負担が少なく、日常の暮らしを続けながら治療が出来るのではと感じました。

復興支援活動

復興支援活動

二つ目は大学四年生の時に起きた東日本大震災です。秋田大学、国際教養大学、秋田県立大学などで復興支援団体を立ち上げ、最初は被災地の泥かきに、半年後からは秋田県内で被災地の物産展を開催したりしました。被災地を訪れる事で医療の前に食べるものや住む場所が無いという状況を目の当たりにし、日々の暮らしを作る様々なものの大事さを感じました。同時に復興支援活動をする中で秋田で活躍する素敵な社会人の方達と繋がり、支援をいただき、秋田との関係が徐々に深くなっていきました。

卒業後

王子生協病院での地域活動の様子 王子生協病院での様子

そんな経験から卒業後は秋田で患者さんを診たいと考えるようになりましたが、一度外で修行する事も必要と考え、東京の病院に就職。そこで疾患や臓器ではなく人間全体を診る事を大切にする家庭医療(現在の総合診療)の考えに共感し、研修ののち専門医を取得しました。また東京で働くなかで、病院で医者として患者さんを診ていても、その人の本当の暮らしは見えて来ないと感じた事から、2019年度よりコミュニティドクターを名乗り地域に出て活動を開始しました。

まちに出て活動したり、暮らしを知る事の何が重要なのか疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし最近ではコミュニティやソーシャルキャピタルといった要因が健康に影響する事が分かってきており、健康の社会的決定要因と言われ注目されています。孤独が毎日15本タバコを吸うのと同じくらい健康に影響すると言われているのです。怖いですよね。

また生活が見えると日々の診療の内容も変わってきます。僕は学生実習の受け入れもしていますが、いつも「患者さんが日々の生活でも患者さんの顔しているわけではない事を知って欲しい」と話しています。当たり前なんですが、病院で実習して、そのまま病院で働き始めると意外と想像つかなかったりするんです。胃がんの患者さんはいつも病院で見るように元気がなさそうにしてるんじゃないかと。でもそうじゃないんですよね。病気があっても家では孫の世話をするお爺ちゃんだったり、農家として畑仕事をしてたり、町内会長として町の人から頼りにされてたりする事だってあります。そういった暮らしの部分を踏まえないと病気の治療方針って決められないと思うのですが、つい病院で患者さんを見ていると忘れてしまう事があります。

しかし病院の外来では十分な時間が取れない事が多かったり、病気以外の話をする関係性が作りにくかったりして、なかなか生活の背景を聞く機会がないのも事実です。なので私は地域に出て、一人の住民としてまちを歩きながら、人と出会い、話すなかで、暮らしを知ったり、まちの人の価値観に触れ、そこから暮らしと健康の関係に気づく事が大切なのではと考えています。

さてそんな思いのあるコミュニティドクターですが、「病院からまちに飛び出し、まちで暮らすみなさんと一緒に、健康で幸せなまちづくりを探求、実践する医師」と定義しています。

コミュニティドクター

秋田に来てからは週に4日は湖東厚生病院で内科医として勤務しながら、水・土・日曜に地域に出て活動しています。今まで朝市での健康相談のブース出店、地域包括支援センターが主催する健康講座での講話、地域医療に関心を持つ学生との街歩きやワークショップなどを行って来ました。朝市の健康相談には、体調に悩みを抱えている人から、ただ話を聞いてほしい人まで、さまざまな人が立ち寄ってくれました。「気軽にふらっと寄って話せる」「相談しやすい」などの感想をいただき、「(病院の)先生にはなかなか言えないんだけど……」と話をしていく人もいました。

診療行為はできませんが、病院へ行くかどうか迷っている人の背中を押したり、生活習慣に関するアドバイスをしたりすることができます。町内の各集落で開催している健康講座では、認知症対策やフレイル予防といった健康に関する話をしました。

おうみや

最近は空き家を利用しコミュニティスペースの運営を行っています。入り口を入るとすぐに大きな棚があるのですが、町の人に棚を借りてもらい、そこに自分の好きなものを置いて自己表現してもらう事で町の繋がりを増やそうと試みています。健康の社会的決定要因へのアプローチですね。また僕と同じように地域に関心のある仲間が全国にいて、最近は教育プログラムの運営も行ったりしています。

学生実習

学生実習の様子

最近は自分のそういった経験を興味のある学生や若手医師にも共有したいと考え、実習の受け入れも行っています。秋田大学はもちろん、弘前大学や山形大学、国際教養大学からも学生さんが来てくれました。また、私自身はコミュニティドクターの活動が好きなのですが、一人では湖東地域を全て見ることは出来ません。学生からすると地域に興味を持ったとしても、まだまだ学べる環境が少ないのが現実です。さらに地域からすると、どこも医者が不足して困っています。なのでコミュニティドクターの活動を学生を巻き込みながら展開することで、病院ではなく地域で医者を育てる事が出来るようになり、それが自分だけでなく、学生、そしてその先にいる地域に暮らすみなさんの幸せと健康につながればと思っています。興味のある方がいれば大歓迎ですので、ぜひ気軽に遊びに来てください。

プロフィール

漆畑宗介(うるしばたそうすけ)
JA秋田厚生連 湖東厚生病院 内科/秋田大学医学部附属病院総合診療医センター/家庭医療専門医/コミュニティドクター
1988年、静岡県熱海市生まれ。学生時代がん患者さんの集まるサロンに参加し、暮らしに興味を持つ。地域医療を学びたいと選んだ王子生協病院で家庭医療と出会い、同病院で家庭医療専門医を取得する。働くなかで病院近くの団地に興味を持ち、2019年から2年間コミュニティドクターを名乗り同地域で活動を行なった。2021年からは出身大学のある秋田県五城目町に移住し、朝市に出店し健康相談を行うなど都会とは異なるコミュニティで活動を続けている。

各種証明書の申込方法及び発行について

各種証明書(卒業・修了証明書、成績証明書等)の発行は次の方法により、発行される証明書の対象となる卒業生・修了生本人が申し込んでください。