③2022年卒業(第47期生)平鹿総合病院 宮地貴士先生

2022年卒業(第47期生)平鹿総合病院 宮地貴士先生

2022年に秋田大学医学部を卒業し、現在は、秋田県横手市にある平鹿総合病院で初期研修医2年目として働いております。

私は、学部3年生の時にアフリカ・ザンビア共和国での診療所建設や現地医学生に対する奨学金といった医療プロジェクトを立ち上げました。ザンビアは1964年10月24日、東京オリンピックの閉会式の日に旧宗主国のイギリスから独立した非常に若い国です。現在の人口は約2,000万人ですが、世界銀行の報告によれば2050年には約3,700万人まで増え、その後も上昇傾向と予測されています。医療体制も日進月歩です。国民皆保険制度は2019年10月からスタート、高度医療に関しては心臓のカテーテル検査を例にとると、国立病院で2019年11月からようやく実施可能になり年間100件程度実施されている状況です。私は、そんな発展著しい国に、将来、臨床医として戻り、現地の人たちと汗水流したいと考えています。

③2022年卒業(第47期生)平鹿総合病院 宮地貴士先生

ザンビアでの活動拠点は首都、ルサカから北東に130km離れたところに位置するマケニ村です。周辺人口を含め5,000人ほどが暮らしています。現地で活躍する日本人医師、吉田修先生のご紹介で2017年2月に初めて訪問しました。そこから6年に渡り資金調達に取り組み、2022年3月に診療所がオープンしました。スタッフや医薬品などはすべて現地保健省から供給されています。

③2022年卒業(第47期生)平鹿総合病院 宮地貴士先生

毎日平均40人程度の患者さんが利用し、多くは上気道感染症や腰痛、膝痛といった整形疾患であり、マラリアやビルハルジア住血吸虫といった熱帯に特徴的な疾患もみられています。2022年4月から12月までに52件のお産があり、45人の赤ちゃんが産声を上げました。残りの内6件は、胎盤遺残、臍帯脱出、重症妊娠高血圧、マラリア合併妊娠、妊娠28週といったケースであり近隣の医療機関に救急搬送されました。残念ながら村で1件の死産があり、16歳の少女がお産した6か月の未熟児でした。ザンビアでは看護師が薬の処方からお産の対応、創部縫合からワクチン接種といった公衆衛生活動まで幅広く活躍します。マケニ村のクリニックには二人の看護師が働いています。プライマリーケアの対応はこのクリニックでできますが、高度な医療は提供できません。帝王切開などの手術が必要な症例は100床規模の郡病院(ザンビア全土に郡は116個、日本の都道府県と同じような単位)に搬送されることになります。

③2022年卒業(第47期生)平鹿総合病院 宮地貴士先生

こういった医療機関に勤める人材を育成しようと、2019年2月に僻地出身者に対する奨学金を立ち上げました。マケニ村出身の青年、ボーティン君が私立のカベンディッシュ大学医学部に合格し彼の学費をサポートしています。2024年1月に大学を卒業し、Medical Licentiate(ML)と呼ばれる医師と看護師の中間に位置する専門資格を取得する予定です。MLは僻地病院において帝王切開などのPrimary surgeryと呼ばれる手術、腰麻、脊髄くも膜麻酔まで行うことが可能です。様々な土地で経験を積んできてから、またこの地域に戻ってきて欲しいと願っています。

私自身は「せんべろ」で有名な東京都北区赤羽出身です。秋田に残り研修をしていると、「なぜ秋田なの?」とよく言われます。この理由を一言でいうとザンビアの活動を通じて秋田の方々に大変お世話になったからです。クリニックの建設費用は秋田ロータリークラブをはじめ、多くの個人、団体からご寄付をいただき、秋田大学の先生方や先輩方にも多大なるご支援をいただきました。資金集めの一貫で、ザンビアの文化を日本人にも楽しんでもらおうと、ザンビアの主食であるシマ(トウモロコシの粉)を生地に使ったザンビア風お好み焼きを考案し、日本各地で屋台販売をしていました。このお好み焼きの材料を大潟村の有機農家、相馬さんや大舘の精肉店、花岡商店さんなどから協賛いただいてました。少し脱線しますが、私の母も秋田の大自然からの恵みに感動し、2018年には一緒に地元の赤羽で秋田の食材を使った定食屋さんをオープンしました。店名は「赤羽定食屋農のう」です。是非、東京にお越しの際はご利用ください。ザンビアの活動を通じて秋田にどっぷりつかるとは想像もしていませんでしたが、これだけ多くのご縁を頂いたことが私が秋田で研修したいと思ったきっかけです。

私が秋田大学に入学したのは、教育に力を入れ、人間性をしっかりと評価していると感じたからです。秋田大学医学部の入学試験の際、2次試験における面接点の割合が全国でトップレベルに高かったのを覚えています。人間性の重視というアドミッションポリシーが実際に入試の評価項目に入っている点に感動しました。地方の大学だからこそ、教授、大学事務と学生の距離が非常に近くアットホームな雰囲気が醸成されています。私はザンビアで村の人口といったデータすらまとまっていない現状に直面し、疫学研究の重要性を痛感したため、医学科5年時に医学部公衆衛生学講座、野村恭子先生の門をたたきました。先生方が取り組まれていた秋田県のトラック運転手における不眠症や交通事故に関する疫学調査に参加させていただきました。先生は会議が入っているとき以外、いつも自分の部屋の扉を開けてくれています。先生の空き時間になると作業スペースに表れて「順調?コーヒーでも淹れようか?」と声をかけてくれます。統計手法や解析結果のディスカッションを雑談のように気軽にできます。先生の手厚い指導でこれまでに4本の英語論文を原著で発表させていただきました。その内、2本は当時医学科2年生だった菅野勇太君と3年生だった安藤友華さんが筆頭です。学部の低学年から英語原著論文を発表できる機会がある秋田大学は非常に恵まれた学習環境だと思います。

現在は日々の臨床でてんやわんやですが、秋田県の医療を支えてきた先生方から知識、技術を学ばせていただいています。どの薬を処方するかという一つの行為を取ってみても、医療が医学に基づく人の営みであり、先人たちの経験とエビデンスに依拠するものだと実感しています。自分もその営みを担う立場になった責任をかみしめながら、過去から脈々と受け継がれてきたこの営みを国境を越えて後世に残していく、そのために、秋田で学び世界を舞台に戦える臨床医になるべく研鑽を励んでいきます。

各種証明書の申込方法及び発行について

各種証明書(卒業・修了証明書、成績証明書等)の発行は次の方法により、発行される証明書の対象となる卒業生・修了生本人が申し込んでください。